PIC_POWER_STONE

母のくれたパワーストーンの縁切りの力が未来を開いた

藁にもすがる気持ちの時があります。
誰でも生きていれば、一度はこんな気持ちになるのではないでしょうか。
そう、心が弱っている時などです。
こんな時はたいてい、体も悪い状態に陥っています。
自分はまるで地獄に落ちた悪人みたいに、地獄の底から頭上にある遠い天国を見上げます。
あともう少しで絶望して無気力になってしまいそうな自分に、天国から細い糸が垂れてきたら、それに無我夢中でしがみついてしまうでしょう。
私の中で藁にもすがるような気持ちとは、そんなイメージです。
でも周囲を見ると、地獄に落ちたようだと思っているのは、私だけではありません。
何人もの人々が、同じように、天国から垂れてきた細い糸にしがみつきます。
これはある有名な童話で、このお話の主人公は、自分に続く人々を阻害して、自分だけが天国へ行こうとします。
すると細い糸は切れてしまい、主人公は再び地獄へ落ちてしまいます。
私の記憶では確か、こんな結末でした。
生きようとする貪欲さは、なぜ生きるのかという問いかけの前に、本能で動いてしまう時があります。
これは、頭では理解しているつもりでも、心や体は、わかっていないということです。
こんな苦しみがあるなどとは、今まで知りもしませんでした。
また、自分をこんなふうにしてしまった人を、憎んだりもしました。
でも、憎めば憎むほど、私の気持ちは、恋焦がれてしまうのです。
私の心の中は、まるで炎と氷がにらみ合い、渦のように激しくグルグルと回っているようでした。
それは、私が陥ってしまった最低で最悪の、苦しい恋愛でした。
彼と初めて出会ったのは、私が大学生になったばかりの頃でした。 彼と私は同い年で、二人とも初めての都会での一人暮らしでした。
彼は活発でルックスも良く、たくさんの友達もいました。
私は人見知りで口下手なので、彼のようには出来ません。
今思えば、私と彼は違いすぎたのです。
でもこの時の私には、彼しか見えませんでした。
私にとって彼は、あの童話の中の天国からの細い糸だったのです。
私は彼の胸に両手の爪が食い込むほどしがみついていたのでした。
優しい彼は、どうしてそんなに不安なの、大丈夫だから、どこにも行かないよ、と言ってくれました。
その彼の優しさは、かえって私を苦しめ、私は彼を憎みました。
この時の私は尋常ではありませんでした。
私に転機が訪れたのは、大学2年の夏休みでした。
法事があり、私はどうしても実家へ帰らなければなりませんでした。
彼と離れたくありませんでしたが、母の電話での強い口調で、私は実家へ帰ったのです。
私の顔を見た途端、母は、泣き崩れました。
私は、それほどひどい様子だったらしいのです。
それなのに私は、母に多くを語らず、好きな人がいてその人と少しも離れたくないのだ、と言いました。
そして私が都会に帰る別れ際、母は私に、これはお守りだから、とペンダントをくれました。
美しい石。
母のくれたペンダントは、母がずっと大切にしていたパワーストーンでした。
母は、ペンダントの石を撫でると気持ちが落ち着いて、本当のことが見えてくるから、などと不思議なことを言いました。
それは、言われてみれば、確かにそんな気もしました。
やがて、私は彼と落ち着いて付き合うことが出来るようになりました。
それは、ただ単に、激しい恋愛の時期が過ぎただけかもしれません
。私と彼の関係は、自然にそっと終わりました。
私は電話で、彼と別れたことを母に伝えました。
すると母は、縁切りとは、新しい始まりでもあるのよ、と言いました。
私は胸のペンダントの石を撫でながら、そっと頷きました。

MENU